空も山も風も

yahooブログから引っ越しました。

第1回 【富士山と台風】

 世界遺産に登録された富士山ですが、毎年夏休みの約1ヶ月、アルバイトで富士山の小屋番をやっていました。その時のエピソードなど紹介したいと思います。

【富士山と台風】

 新聞もなく、テレビも夜しかつかない富士山の山小屋での毎日の日課は、ラジオの気
象通報を聞いて天気図をつけることでした。
 独立峰で遮るもののない富士山の天気は、平地とは比較にならない程、気圧配置の影
響を大きく受けます。特に、山小屋で迎えた台風の体験は忘れられません。

 夏の天気図を見ると、日本の南の太平洋上によく台風が現れます。
そのうち、夏の登山シーズン中に毎年1つか2つぐらい台風が日本にやってきます。
 山の上では、台風の同心円状の等圧線の一番外がかかるぐらいから、強い風が吹き始
めます。たとえば、九州に上陸した台風の影響で、遠く離れた富士山が暴風雨となるこ
とがありました。台風により生じた大きな気圧差のため、巨大な大気の流れとなって南
海上から富士山を直撃します。

 天気図から台風の襲来が予想されると、宿泊者に早く下山するよう促し、小屋の雨戸
を完全に締めて篭城体制をとります。明かり取りの小窓を残して雨戸をしめると、昼間
でも小屋の中は真っ暗で、風や豪雨の音を聞きながらひたすら台風の過ぎ去るのを待ち
ます。
 この台風の通過を待つ時間(最長で3日続きました)、安全さえ確保できれは、世の
中から隔絶されたつかの間の休息とでも言うのでしょうか、宿泊者の世話をする必要も
ないし、考えようでは快適な時間であったと思います。
 雨戸をゆらす風の息や、周期的に屋根をたたく雨の音に慣れてしまえば、心地よい
BGM(すこし騒がしいが)、ジタバタしても始まらないと腹をくくって、本を読んだ
り、昼寝をしたり、気ままな時間を過ごしました。
 日課の天気図の作製もこの時ばかりは日に3回行い、定時のラジオニュースで聞いた
台風の位置と実際の風向きから現在の位置を予想していました。

 一度、隣りの小屋にどうしても取りに行かなければならない物があり、雨合羽を着て
決死の覚悟で外に出て行ったことがあります。風に逆らう本人は、一所懸命走っている
つもりですが、小屋の中から見ていたら、まるでスローモーションのように手足を動か
していて、本人は必死ですが小屋の中では大笑でした。
 やがて、風の力が弱まって小屋の外に出てみると、中身が入っているプロパンガスの
ボンベが横倒しになり、ビニールシートをかけて置いてあった空の石油缶が、跡形もな
く風の力で飛ばされていました。

 台風が過ぎ去った次の朝は、いはゆる「台風一過」、この時の展望については、また
回を改めて書きます。
                                第1回終わり